2024年8月29日~31日までの3日間、長井市コミュニティ協議会主催のもと、「長井市×ファッション マッチングプロジェクト」と題した企画が実施されました。
名古屋市のファッション専門学生8人が長井市を訪れ、3日間にわたり市内の織物工場や縫製工場などを見学。長井の町を巡りながら自身のクリエイティビティを深め、最終日には長井のアパレル産業に対して提案を行いました。
企画したのは、コンサルタントやスタイリストとして活躍する中川拓さん。山形市生まれの中川さんは、東京のアパレル商社で海外コレクションブランド事業をリードした後、そのノウハウを生かして独立。2024年春に山形へUターンしてからも、「どうすればブランドを広げられるか」という課題に対し、営業代行やコンサルティングを行っています。
ファッション業界を広く見渡してきた中川さんだからこそ企画できた今回のプロジェクト。その振り返りと今後の展望を中川さんご自身に伺いました。
Q. 今回のプロジェクトを企画したきっかけを教えてください。
洋服のデザインなどを長らくやってきましたが、せっかく山形に帰ってきたのだから、山形でしかできないことをしたいと思っていました。これまで様々なブランドの営業やコンサルをしてきた身からすると、山形にはすごくいいものがいっぱいあるのに、PRや販売の仕方がもったいないと感じていて…。山形の魅力をもっと外に広げるために何かしたいと思っていた中で、今回の企画に思い至りました。
Q. 中川さんから見た、長井の特色を教えてください。
まず、長井紬という織物があって、長い歴史を持っています。あとは、グンゼの工場があったこともあって縫製の基盤も整っていますし、染めができる場所や自分で糸を紡いでいる織物工房さんもあります。
20年近くファッション業界にいて気づきましたが、町ごとにひとつの生産工程に特化していることがほとんどです。この町で生地を作ったら、今度は次の町に行って縫製して、次の町に行って加工するという流れで、ぐるぐる回って一つのものができあがります。ですが、長井は町の中で完結させようと思えば完結できる。これがすごく珍しいし面白いなと思って、長井の中で何か一つのものを生み出すことができたら楽しいのではないかと思いました。
Q. 今回のプロジェクトで、学生さんたちにはどんなことを体験してもらいたいと考えていましたか?
まずは、長井のファッション的な面白さに加えて、町自体も知ってもらいたいということ。ただ工場を見て回るだけでなく、長井のスーパーで食材を探してご飯を作ったり、自分たちでリサーチして自転車で市内を回ったり、この町全体を楽しんでもらうための企画作りに力を入れました。
もう1つは、僕自身が学生だったときに思っていたし、社会に出てからなおさら強く感じたことなのですが、ファッションやデザインを学ぶ学生の多くは、自分がデザインしたものがどうやって形になるかをあまり知らずに社会に出てしまうことが多いんです。デザインとしては確かに面白いけど、「これって現実的にどうやって作るの?」と言われたときに「わかりません」となってしまう。せっかくイメージする能力があるんだったら、それをデザインで終わらせないで、ちゃんと形にできるスキルを身につけてほしい。そのために、早い段階から縫製やものづくりの現場を見て、今後のクリエイションに活かせるような土台作りをしてほしいという思いがありました。
あとは、ものづくりしてる人たちの悩みにも目を向けてほしいということ。長井紬はそれこそ、歴史もあるし非常に高いクリエイティビティを持っていますが、後継者不足やマーケットの移り変わりもあって、将来的なビジョンが見えにくい状態です。これは、長井紬だけでなく全国のあらゆる産業に言える課題だと思います。「ものづくりしてる人達は今、何が難しいと思っているのか?」ということがデザイナー側に伝わらない限り、一生変わらないか衰退していく一方です。今回の企画には、デザインする人とものづくりする人がちゃんと手を取り合える環境を作りたいという思いも含まれているんです。
Q. 中川さんから見て、学生さんたちの実際の反応はいかがでしたか?
せっかく服飾を学んでいる学生が来るので、そのまま帰ってもらうのはもったいないと思い、最終日に成果発表の場を設けました。
(1)長井紬を世の中に広げるためにできることを考えてください。
(2)長井刺し子を世の中に広げるためにできること考えてください。
(3)長井をテーマにしたテキスタイルデザインを考えてください。
この 3つの中から好きなテーマを選んで、長井を外に広げるためのアイディアを発表してください、と。僕はてっきり、ファッションを学んでいる学生だから、服のデザインで全て提案してくると思っていました。しかし、実際の発表内容は単なるデザインだけでなく、町の課題に対してこういうものを作っていくことで、世の中により広げられるのではないかという、いわゆるビジネス的な目線を取り入れたものが多かったんです。
ただデザインをするだけで世の中が変わるわけでなく、ちゃんとその広がり方も含めて考えてもらえたことがすごく嬉しくて!長井をちゃんと見てくれたからこそ出てきたアイディアなんだろうなと感じられたことが、何よりも嬉しかったです。
Q. 今回のプロジェクトでどんな成果があったと考えていますか?
今回のプロジェクトで彼らがここに来たのは、僕から見るとまだ全工程の半分ぐらいです。ただここに来て、観光して良かったねという終わり方だけは絶対にしたくなくて、将来的に長井に移り住む子もいるかもしれないし、今回伺った企業さんと取引先としてつながりを持つ子もいるかもしれない。そうなったら理想だなと思いながら企画していました。
今、成果発表会で発表してくれた内容をさらにブラッシュアップしてもらっています。なぜブラッシュアップする必要があるのかというと、今回の成果内容をちゃんと商品化して全国に流通させるプロジェクトも進行しているからなんです。他県から来た子たちが長井で出会った感性、長井で出会ったものづくりの基盤を利用して、商品を開発してそれを全国に流通させる。そのための一歩一歩をちゃんと踏み出せるよう、今もサポートしている最中です。
Q. 長井市あるいは山形県のファッション産業は、今後どういう可能性や展望が考えられると思いますか?
山形県は「生産」の町というイメージがものすごく強いです。縫製工場もあり、ニットや織物の産地として有名な町もあり、生産において非常に高いクオリティを持っています。けれども、それを商品として販売する会社がどれだけあるかというと、全国的に知名度のある会社はわずかです。これだけ潜在的な能力を秘めているにもかかわらず、それを意外と活かしきれていないんです。作った後の出口、売り先をどれだけ確保できるかということが、今後の重要な課題になってきます。僕はむしろそこが得意技ですから、僕をうまいこと使ってもらって、全国に発信するような仕組み作りを行っていきたいです。
Q. 最後に、中川さんの今後の目標を教えてください。
「山形めちゃくちゃ面白い!」と思ってもらいたい気持ちが一番強いかもしれません。営業だけ頑張っていれば一時的に売り上げは立てられるかもしれませんが、そこに面白さや人の心を動かす何かがないと継続していきません。山形には本当に素敵なものづくりをしていらっしゃる方が多いし、それに価値を持ってくださる方は全国にたくさんいます。山形県や長井市で生み出されたものが、適正な価格で全国に流通する状況を作っていく。作ったものをちゃんと外に出せる場所を作っていく。それが、今の僕の使命だと思っています。
(主催者より)長井市コミュニティ協議会事務局 高橋弘人さん
学生さんたちの「ここで何かを学んでやろう」という姿勢や真剣な目にすごく感動しました。長井の伝統産業である紬や刺し子、そしてテキスタイルをテーマに、長井の要素を含んだアイディアを考えてくれたことがすごく嬉しかったです。今後これをどうやって実現していこうか、長井市あるいは私個人としてどうやってサポートしていこうかと考えると、すごくワクワクしています。
長井にいる人たちだけでは成し遂げられないこともたくさんあると思いますので、学生さんやサポートしてくださる方たちと共に物事を進め、「Made in 長井」や「Made in 山形」のコンテンツを、日本そして世界に発信していけたらと思います。その結果、長井に住んでいる人たち、長井に関わっている人たちに、「長井ってやっぱりいい町だな」と思ってもらえたら最高ですね。